精神疾患と脳科学どこまでわかってきているのかな?
わたしは、精神疾患と神経疾患との違いもあやふやなんですが、脳科学が進歩するとその区別も意味がなくらるといっています。
それは、精神疾患と言っても、今の技術で見える病気があるはずで、それが解明された時点で、脳の疾患となり、精神、神経の区別がなくなる。
ただ精神疾患は、そんなに単純なものではなく、ある人は脳の病気で、ある人は心の悩みが原因で、同じような症状が生じうる、というところに難しさがあるということです。
たとえば、大失敗をして、国に何十億の損失を与えてしまった。当然ながら落ち込み、夜も眠れないし、申し訳ないと思って食欲も出ないし、何もやる気がでない。ものすごく強いストレスを受けて、心がうつ状態になる。
ところが、何十億の損害は間違いで、逆に何億円もの利益が出る状況だったと教えてもらったとします。
その瞬間、ああ、よかった!と言って祝杯をあげたくなるような気持になれば、病気でなかったといえます。
しかし、間違いだったと聞いたのに、いや、そんなはずはない、やっぱり私は失敗したんだ、みんなに迷惑をかけたんだ!と言い張って、いくら周囲が訂正しても認めようとしないとなる。こうなってしまえばもう。うつ病です。その時、自己回復力を超えた病的な状態になっているということです。
問題は、現状の技術では、自己回復力の範囲内のうつ状態か、本当のうつ病か正確に診断できない。
現在、脳の異常が本当にうつ病の患者さんでおこっているのか、完全に分かっていません。
そして、自閉症のモデルマウスが、理研の先生によりつくられたことにより、自閉症の研究が進み、このマウスは自閉症でみられる染色体異常をマウスで再現したもので、これをつかった研究から、自閉症は、神経細胞レベルで、シナプスができやすく壊れやすいことが原因でおこると考えられそうというところまで、分かってきたようです。
また、双極性障害以前は、躁うつ病とよばれ、精神疾患で、異常なほどの高揚感でトラブルを起こしたりする躁状態と、何もできなくなるほど抑うつ感の強まる抑うつ状態を繰り返すことが特徴です。うつ病と双極性障害のうつ状態とは異なる病態と理解されています。
精神疾患は、生まれ持った遺伝子と外部環境との相互作用により発症します。この2つの因子が関係していることは明らです。
双極性障害は、両親、患者さん、本人の3人をトリオといい、その両親が疾患を発症していないトリオを調べると、新しい突然変異を直接に検出することができます。
その結果、理研の先生は、自閉症の研究と同様に、双極性障害でも、両親にはなかった新しい突然変異が発症に関係している可能性を、世界で初めて示しました。
そして、双極性障害を伴う遺伝病には、ミトコンドリアか小胞体かどちらかの細胞内小器官の働きに異常が生じる病気が多く、この2つの細胞内小器官の病気が、双極性障害を併発することは、ほぼ間違いないようということがわかりました。
そしてその2つの中で、ミトコンドリアに注目し、核磁気共鳴スペクトロスコピーという非侵襲性な方法で、脳を解析していきました。その中で、脳のエネルギー代謝の変化を見つけ、うつ状態におけるクレアチンリン酸(ATP生成に利用される物質)の低下や、症状が落ち着いている時期における細胞内のPHの低下などが起こっていた。
そのあと、イタリアのミトコンドリア病の研究者が同じような結果を発表したため、ミトコンドリア病と双極性障害とが関連するヒントを得たとのことです。
それ以上研究を進めるには、分子レベルの研究になり、ミトコンドリアDNAを調べ、ミトコンドリア病では、ミトコンドリアDNAが変異しているのですが、疾患によって変異する臓器が異なります。つまり、ミトコンドリアDNAの変異がたまった臓器で症状がでる、ということです。
このことより、ミトコンドリア機能障害のおこる場所が病気と関係する。
そして、ミトコンドリア機能障害が関係している病気は山ほどあります。
たとえば、糖尿病は膵臓のランゲルハンス島のミトコンドリア機能障害、パーキンソン病は黒質のミトコンドリア機能障害、などがあり、
双極性障害はどの部位が関係しているかを、理研の先生はついに突き詰めました。
その方法は、マイクロダイセクション装置というものを使い、脳を400程に分割し、1つ1つミトコンドリアDNAの変異している量を調べ、画像にしました。
そして、その結果、「視床室傍核」という部位が特定できた。
双極性障害は、視床室傍核のミトコンドリア機能障害が原因ということがわかった、ということだそうだ。
これだけ、医療が発達していて、精神疾患が定量できない指標により判断されているとうことに、少し疑問がわくところも正直あります。