市販鉄製剤を使うために

市販鉄製剤を使うために

ドラッグストアには、鉄製剤があり、鉄分を補給することができるが、自分で鉄分が不足している状態をどのように判断していくかを考えると結構難しいものがある、と考えてしまいます。病院を利用することが、1番目に考えられます。続いて、出血があった場合や、出血が続いている場合、以前に鉄欠乏性貧血になった時があり、症状が同じである場合など、この場合は、ドラッグストアで鉄製剤を購入するかもしれません。他の何か症状がある場合に服用することになりますが、どう判断していけばいいでしょうか、「LQQTSFA」という質問手順があり、それを使い自分自身のことですが、客観的に見ていくのがいいのではないでしょうか、しかし、これも推測であり、鉄製剤を服用して、症状が悪くなる、2週間して良くならない場合は医療機関を受診をおすすめいたします。

貧血とは、単位面積あたりのヘモグロビン濃度が減少している状態と定義されている。

WHO基準では、成人男性では、13g/dL未満、成人女性や小児は12g/dLなどと定められている。ただし、通常は、末梢血の赤血球数やヘマトクリット値も減少する。

赤血球産生の流れ

1、造血幹細胞→異常 再生不良性貧血(汎血球減少)

2、赤芽球系前駆細胞

エリスロポエチン作用→異常 腎性貧血

3、前赤芽球

DNA合成期 ビタミンB12、葉酸作用→異常 巨赤芽球性貧血

4、正赤芽球 ビタミンB6、鉄作用 ヘモグロビン合成期→異常 鉄欠乏性貧血

核が外れる

5、網状赤血球 1部ヘモグロビン合成期→異常 鉄欠乏性貧血

ミトコンドリア、リボソームが外れる

6、赤血球→異常 溶血性貧血

赤血球産生低下には、①エリスロポエチン産生低下で、腎性貧血、感染や炎症による貧血など、②造血幹細胞の異常で、再生不良性貧血、赤芽球癆、骨髄異形成症候群など、③赤血球の成熟障害で、DNA合成障害に、巨赤芽球性貧血、骨髄異形成症候群、薬剤性などがあり、ヘモグロビン合成障害に、鉄欠乏性貧血、サラセミアがある。

そして、赤血球破壊亢進には、溶血性貧血などがある。

腎性貧血は、腎臓で産生されるエリスロポエチンは、糖タンパクでありサイトカインに分類される。腎不全になると、エリスロポエチンの産生低下により腎性貧血を生じる。

再生不良性貧血は、造血幹細胞の減少により、赤血球、白血球、血小板の3系統の血球が減少(汎血球減少)し、骨髄の細胞密度の低形成を特徴とする疾患である。先天性のFanconi貧血が知られており、後天性には、自己抗体産生の免疫異常や薬剤(ファモチジン、クロルプロパミド、インドメタシン、スルファメトキサゾール・トリメトプリム(ST)合剤、クロラムフェニコール、フェニトインなど)、放射線、化学物質、肝炎ウイルスにより起こる場合がある。

赤芽球癆は、赤血球系の造血が選択的に抑制され、貧血をきたす。白血球や血小板が正常である点が、再生不良性貧血と異なる。ヒトパルボウイルスB19の初感染や、フェニトインやイソ二アジドなどの薬剤性の場合もある。

骨髄異形成症候群は、異常な造血幹細胞が、増殖分化を繰り返し、造血系が異常クローンに置き換えられ、正常造血幹細胞の造血が障害される。さらに異常クローンの状況によっては、急性骨髄性白血病に移行しやすい。

巨赤芽球性貧血は、骨髄に巨赤芽球が出現する貧血で、ビタミンンB12や、葉酸が欠乏(自己免疫、胃全摘、吸収障害)するために間接的に赤芽球の核のDNA合成が阻害され、核の成熟障害から巨赤芽球(幼若赤芽球)となる。核の成熟障害、無効造血を特徴とする貧血です。自己免疫機序に伴うビタミンB12の吸収不全でDNA合成阻害が生じる悪性貧血が代表的疾患である。葉酸欠乏や骨髄異形成症候群でも巨赤芽球性貧血が認められる。

葉酸欠乏による巨赤芽球性貧血は、慢性アルコール中毒者、腸切除、フェノバルビタール、フェニトインなどの抗てんかん薬等による吸収不全、メトトレキサート、スルファメトキサゾール・トリメトプリム:ST合剤、等の薬剤投与でも認められる。

鉄欠乏性貧血は、ヘモグロビンの構成成分である鉄が不足したために起こる貧血です。日本では、貧血の中で最も頻度が高い。若年~中年女性に多い。

鉄欠乏では、まず、血清フェリチンという貯蔵鉄が減少し、ついで、血清鉄(トランスフェリン結合鉄)が減少し、最終的には、骨髄への鉄供給が減少し、ヘモグロビン合成が低下する。

原因は、摂取不足として、偏食やミネラル不足、吸収不全として、無酸症、胃切除術後など、需要の増大として、成長期女性、妊婦、授乳、小児、排泄増大として、出血性消化性潰瘍、月経過多、子宮筋腫、悪性腫瘍による出血などがある。

症状は、急速には出現しにくい。貧血の一般症状は、全身倦怠感、息切れ、動悸、ふらつき、頭痛、めまい、異食症(土や氷などを食べたがること)、舌乳頭萎縮(平たい赤い舌、舌炎)、スプーン状爪(さじ状爪)、高拍出性心不全などである。

検査は、①末梢血をみる。貧血の種類を判定するためには、赤血球数と、ヘモグロビン量、ヘマトクリット値の3者の相互関係を調べる必要があり、その3者の相互関係を赤血球恒数というようです。代表的なものに、平均赤血球容積(MCV:赤血球1個の大きさ)、平均赤血球血色素量(MCH:赤血球1個に含まれるヘモグロビン量)、平均赤血球血色素濃度(MCHC:単位容積赤血球あたりのヘモグロビン濃度)があり、鉄欠乏貧血では、MCV、MCH、MCHCがすべて減少する。その結果、小球性低色素性貧血と分類される。

②骨髄は、赤芽球増加。

③鉄代謝をみる。初めに、貯蔵鉄の指標となる血清フェリチン及びヘモジデリンの減少が起こる。総鉄結合能増加、不飽和鉄結合能増加がおこり、ついで、血清鉄(トランスフェリン結合鉄)減少が生じる。

④トランスフェリン高値(基準値190~320mg/dL)

となっている。

治療は、鉄剤の2価鉄を経口投与する。

鉄剤の副作用は、悪心、嘔吐、食欲不振、下痢、便秘などの消化器系の副作用が多い。

テトラサイクリン系抗生物質、ニューキノロン系抗生物質、セフジニルとの併用により、キレートを形成するために相互に吸収が低下する。

治療方法は、経口用剤の投与期間は、鉄欠乏性貧血では、貯蔵鉄ついで血清鉄が減少するので、経口鉄剤投与後、血清鉄が正常化し、ついで貯蔵鉄が正常化するまで(約半年)は、経口投与を持続する。

投与時間は、鉄剤の吸収率が最もよいのが早朝空腹時である、副作用が強い場合は効果はやや落ちるが、食後に服用する。

便が黒色化することは予め注意しておく。鉄剤に、ビタミンCを併用すると、3価鉄を2価鉄に還元して鉄の吸収を促進する効果がある。

溶血性貧血では、赤血球がさまざまな原因により生理的寿命(120日)を迎える前に破壊(溶血)されて、赤血球の破壊の亢進が起こる貧血である。抗赤血球抗体が産生されることにより赤血球が破壊されて生じるのが、検査にクームス試験を使用する自己免疫性溶血性貧血(Ⅱ型アレルギー)である。また、重症型サラセミアは、溶血性貧血を起こすとされている。

以上(薬剤師国家試験参考書(改訂第9版)病態・薬物治療)より

以上が全てではないが、貧血の概要です。

ドラッグストアなどでは、当然検査もできませんから、多くの可能性がある病気の中から、貧血であることを推測し、そして、貧血の中から、鉄欠乏性貧血を、それも推測していくことになります。

自覚症状の特徴を、とらえるための質問手順は、「LQQTSFA」という質問手順が有名です。この手順をつかい、ドラッグストアでの購入時に、自分自身の病気の判断につかえないかと考えます。

L(location) 部位、どこが?

Q(quality)性状、どのように?

Q(quantity)程度、どのくらい?

T(timing)時間と経過、いつ?いつから?

S(setting)状況、どのような状況で?

F(factor)寛解・増悪因子、どんな場合に悪くなる(良くなる)?

A(associated manifestation)随伴症状、同時にどんな症状がある?

上の質問を、紙にでも書いておき客観的に考えていきます。

よく鉄不足の時は、スプーン爪(さじ状爪)になるといいますが、これは特徴としては分かりやすいですが、慢性的な外力や、感染症や皮膚疾患でもなる場合があります。

また、フィジカルアセスメントガイドブック(山内豊明)(医学書院)をみると、息苦しい、ドキドキするときに貧血の記載が出てきます。

息苦しいとなる場合、処置が遅れると生命に関わる疾患のサインの場合もあります。

上の「LQQTSFA」の質問手順を使い、原因を推測して、緊急度も検討しなくてはなりません。

息苦しいとなる場合は、

突然の発症なら、気胸や、肺梗塞、心筋梗塞など、

急速に進行する場合は、喘息発作など、

緩徐に進行する場合なら、肺炎や、慢性心不全、貧血などが考えられるようです。

急速に増悪している場合は、当然ですが、すぐに医療機関に行くことを考えます。

随伴症状が、咳と発熱の場合は、肺炎や、気管支炎の可能性があり、動悸とめまいがある場合は、貧血や頻脈などの可能性があり、胸痛は、狭心症、心筋梗塞、肺梗塞などの可能性が考えれるようです。

ドキドキする場合は、

1回だけドキッと強い拍動がある、突然止まる感じ、などは、不整脈の可能性があります。(不整脈、頻脈の既往を確認する。)

ドキドキ・・と拍動を強く感じる場合は、狭心症、心不全、貧血、甲状腺機能亢進症などが考えらるようです。

動くとドキドキする場合は、労作性狭心症、貧血などが考えられる。

随伴症状として、発熱がある場合は、感染症の可能性があり、呼吸器の疾患や肺炎が考えられる。

胸痛や息苦しさは頻脈(動悸よりも、胸苦しさや不快感として表出する場合も多い)の可能性があり、手の震えや不眠は甲状腺機能亢進症の可能性(眼球突出、落ち着きのなさ、体重減少など)がある。ということです。

セルフメディケーションとは、自分自身の健康に責任を持ち、軽度な身体の不調は自分で手当てすることです。自己責任になりますので、はじめから鉄欠乏性貧血と、分かっているなら軽度な身体の不調に入るのかもしれませんが、あくまで推測ですから、他の貧血、他の病気も隠れている可能性も頭の片隅においておかなければなりません。市販鉄製剤の添付文書には、2週間ぐらいつかっても症状がよくならない場合は、医療関係者に相談しましょう、となっています。服用していても、だんだん悪くなる場合は、もう少し早めに医療機関に行くべきでしょう。

鉄欠乏性貧血は、数ある貧血の種類のうち、9割以上を占めるといわれています。

現在、1日の鉄の所要量は成人で10mgとされています。ただし閉経前の女性や、12歳から20歳頃までの成長期にある人は、それより少し多めの12mg。また妊婦さんも多く摂る必要があり、特に妊娠後期では20mg。さらに授乳期の場合も、同様に20mgとされており、これらの数値が1つの目安になるといえるでしょう。(ニプロすこやかネットより https://www.nipro.co.jp/sukoyakanet/25/03.html   )

ここで注意は、妊婦や妊娠していると思われる人は、鉄分を多くとる必要があるということですが、市販の鉄製剤は医療関係者に相談することとなっています。この場合は、一度、医療機関を受診した方がいいように考えます。

また、肝硬変やC型肝炎の場合、なぜか肝臓に鉄の過剰沈着が起き、肝機能の悪化を招くことが分かっているようです。また、投与量と期間によっては肝臓に悪影響をあたえることもわかっているようです(例えば毎日Feとして50mgを7年以上)。漫然とした鉄製剤の服用は注意が必要です。

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